SDGs(持続可能な開発目標)(蟹江憲史)

これからの世界どうすべきかシリーズ、この前読んだ本では資本主義という仕組み自体が破綻しているというような内容であった。そこではSDGsにも触れられていたが、あくまで開発・経済成長を目指そうとすると利益追求のための搾取が入り込んでしまい、持続可能性から遠ざかってしまうということが主張されていた。SDGsについてはフワッとしか知らなかったので、本を読んでみることに。言葉自体は少し前から聞いていたし、掲げられただけのデカい目標かと思っていたが少し違うことがわかった。いま世界が抱えている課題は多様で複雑なものである。その問題の解決策として「人新世の資本論」の考え方はとても魅力的だが、少し過激な感もある。それに比べ、今の世界の延長線上に未来のあるべき姿を示したSDGsは実行可能性も感じられる革新的な取り組みであることがわかった。その特徴は

  • 環境と開発という2つの潮流を1つに合わせたもの。また経済・社会・環境は互いに関係し合い、互いに依存しあっているとされ、3つの柱から3つの側面へと統合された。持続可能な社会(将来の世代の欲求も満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発)の実現に取り組むための世界規模のコンセンサスができた。
  • 目標だけを定め、目標達成の手段に関しては細かいルールを設けていない。いわば答えだけが書かれた問題集であり、どのように目標を達成するかについては細かいルールは定められていない。また達成できなくてもペナルティはない。行動の創出を重視している。
  • 様々な指標を用いてその目標に対する到達度を測る。指標や認証制度が整えられつつある。
  • 世界規模で解決しなければならない問題として全部で17の目標(目指すべき到達点)とその目標をより具体的な数値で書いた169のターゲットが示されている。解決すべき課題が複雑であるため目標は多岐に渡るが、全てに一気に取り掛かる必要はなく、17個の入り口があると思う方が良い(結局全部繋がってくる)。
  • Society5.0も第4次産業革命も社会は自律分散協調的な方向へと向かう。中央集権的にコントロールするのではなく、自律分散的な主体が、ネットワークを通じて協調しながら、課題を解決したり、秩序を作っていったりする。そうした世界で重要なのが、共通目標や共有されたビジョン。その公共性に基づく共通目標を示しているのが、全ての国連加盟国が合意したSDGs

世界の共通目標を定め、その目標に近づくための行動を促す、という建て付けになっているのが大きな特徴とわかった。(最後の項目については「何を善とするか」という哲学的な見方もできる。)強制力があるわけではないのですぐにというわけにはいかなかったが、少しずつ意識が高まってきていて、次のように役立てられるようになってきている。

  • 様々な事業の長期目標を定めるのに役に立つ、またにその事業の進め方がSDGsの目標に沿っているか、というチェックに使える。解決すべき課題が事業をおこすヒントになる。
  • 金融業界もこの動きに注目しており、社会的課題を解決しているか、という非財務価値が企業の価値に大きく関わるようになって来ている。投資などを呼び込むどの項目にどのように貢献するか世界共通の言語となる。地方創生(自律的好循環の形成)の手がかりにもなる。
  • 製品を作るときには、素材や作り方に関するストーリー性が重要になる。
  • 研究開発で分野を超えたコラボレーションが生まれている。

少しずつ良い方向に向かっているようだが、当然課題がある。

  • 現時点でSDGsに貢献するためにはコストがかかる、経済的持続性の必要
  • はじめは支援を受けていても、最終的には事業として成り立たせる必要がある。採算がとれるようにいなければならない。
  • 地球規模の問題には公共財ゲームの側面がある、すなわち個別合理性と社会全体の利益が調節が必要。

コロナ対策も一緒だが、最終的には個人の意識を変える必要がある。個人が変わることではじめて企業や社会が変わる。そのためには1人1人、自分のできる範囲で行動を起こして様々な課題を自分ごととしてとらえることがそのきっかけとなる(それぞれの価値観によって起こす行動がバラバラでも良い)。いろいろ勉強する中で環境に対する危機感を持つようになり、地球の将来を考えるようになった。そして普段の生活の中で持続可能性を意識するようになった。コロナがグローバル世界の負の側面を炙り出し、これをきっかけにSDGs推進の方向に一気に切り替えるチャンスが来ている。環境破壊が進んでいると言われている中でも、時間をかけながら少しずつ持続可能な世界に近づけようという動きもしっかりと生まれていることが感じられ、未来に希望を感じる内容であった。今話題のSDGsを知る意味でも、世界がどう動こうとしているか知る意味でも、どんな未来を目指すべきか考える意味でも、この本を読んでよかったと思う。