ヒトの言葉 機械の言葉「人工知能と話す」以前の言語学(川添愛)

授業で機械の言語について少し学んだタイミングでこの本に出会った。帯を見ると、しゃべるAIについても書かれているようで、AIがどのように言葉を扱っているか気になると思い購入。

AIの進歩は目覚ましい。最近だと、どっかの研究でAI同士が勝手にコミュニケーションをとったり、「人類を滅ぼす」というような発言をしたというようなニュースは衝撃をもって伝えられた。自分も「これは結構やばいんじゃないか?」と何となく思っていたが、事情はそんなに単純じゃないことがこの本を読むと理解できる。コンピュータとは「数」を扱う機械であって、言葉も数に変換されてから処理されている。すなわち、コンピュータが発した「人類を滅ぼす」という言葉もコンピュータにとっては数字の羅列を出力したに過ぎないということがある。(画像も画面を区切って、数字のデータで指定されたところに指定された色を出力している)したがって人間のように言葉を理解しているわけではない。この「AIは数を入力とし、数を出力するもの」でしかないということは押さえておきたい。

昔のAIには「こうだったら、こう」ということをいちいちプログラムし、人間と同じような振る舞いを目指していたが、その方法はうまくいかなかった。(例えば猫の判定。写真を見せられて猫かどうかを判断するとき、人間は何となく猫っぽさを掴み、それを基準に判定するが、人間にとっての猫っぽさをうまく言語化できなかった)この、プログラムされた通りにしか動かない、融通の効かないコンピュータにどうすれば人間のような柔軟な判断をさせられるか、というのがAIの研究の歴史であり、そのために生まれたのが機械学習(あんまりよくわかっていなかったが、読み込んだデータを元にパラメーターを決定し関数を求めるようなものだと説明され納得した)である(深層学習もその延長)。飛躍的に能力は向上したが、読ませたデータの影響を受ける(さらに、読み込む情報の正しさを疑うことできない)ことや、どういう計算の仕方でそれを出力しているかがわからなくなる、ブラックボックス化などの問題を抱えている。いずれにしても、AIは言葉の知識を持っているわけではない。(意味を教えればいいじゃないかと思うが、「言葉による言葉の説明」のためには、言葉によらずいくつかの言葉の意味を知っていなければならない。このような、「じゃあこうすれば?」と思ったことを直後に説明してくれるのでスッキリ読める。)

AIにできること、(今のところ(?))できないこと、課題が徐々に明らかになり、思ったよりもできることが少ないというか、大変さがつきまとうことが理解できた。それも勉強になったのだが、より印象に残ったのは人間の言葉の難しさ、複雑さについて。何気なーく言葉を使っているので意識したことはなかったが、この本を読んで自分たちが言葉を喋っていること、それを使ってコミュニケーションをとっている事がいかにスゴいことか認識できた。その難しさの例として自動詞と他動詞が挙げられている。(これ以外にもたくさん例が挙げられている。)そんなの英語のテストのときにしか気にしたことがなかったが、よく考えてみると、なるほど言葉は難しいと考えさせられる。

  • この美しい街並み
  • とても美しい街並み

この2文は見た目よく似ているが、異なる文の構造を持っている、すなわち「かたまり」に切り分けた時の切り分け方が違う。語順を少し入れ替えて

  • 美しいこの街並み
  • 美しいとても街並み

としてみると、2つ目がオカシく感じてしまう。これは「この美しい」がかたまりをなさないのに対し、「とても美しい」がかたまりをなすことによる。AIが自然な日本語を使えるためには、これらの違いを認識できる必要がある。(人間がどうやって母語のこの感覚を習得したかはまだ明らかになっていないみたい。)このほかにもAIが言葉を理解すると言えるために必要そうな条件として意図を汲み取れるかという問題(「絶対押すな」は「押せ」のような、文脈や文化などについて知っていなければ対応できない)や具体的な行動を選ぶこと(「コップに水を入れて」と頼んだときには「どのくらい入れるか」という判断も求められるし「周りを濡らさないように」とかそういう配慮も求められる)のような問題もある。そもそも意味をわかっていることの必要十分条件は何なのか?ということもまだわかっていないらしい(確かに言われてみると答えられない。そんな状況で、どういう根拠に基づいて「機械が人間と同じように言葉を理解し話せるようになった、あるいはそうなっていない」と判断すれば良いのか。)

人間の言葉を理解できなければ、機械の言葉を評価することができない。

機械の言葉との比較によって、人間の言葉の本質の理解が進むかもしれない。

 なるほどな〜と思った。少なくとも私はこの本を読んで人間の言葉を見直すきっかけとなった。(この本には、意識したことはないけど言われてみると確かにムズイ…と感じる例がたくさん挙げられている。)言語学もおもろいな。また、AIはこれからの世界で切っても切り離せないものになると思うが、AIを「うまく使う」こと、AIを「正しく理解する」ことも必要だろうと思った。なるほどに溢れたいい本でした。