1度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 経済編(山崎圭一)

学生時代ムンディ先生(著者)のYoutubeの授業動画にめちゃくちゃお世話になったので、一度読んだら忘れないシリーズは世界史、日本史も買わせていただいている。その特徴であるストーリーを意識した解説はそれまでの歴史のイメージが大きく変わった。地政学を学び始めて、その瞬間その瞬間の出来事には何かしらの合理性があることに気付いてから歴史の見方が変わったのだが、その理解の深まりにこの本たちも一役買っている。ここんとこ経済や社会のシステムに興味があって、3冊目である本書が経済編というのはめちゃくちゃタイムリーだった。物事を理解するには1つ1つの事象を追いかけるよりも、その根元に流れる根本原理を理解し、それを土台に個別の事象を捉えていくということが重要だと思う。人間の根本原理は「食べていく」ということだと思うが、それは詰まるところ「食べるものを得る」ための活動、および「必要物資を手に入れる」ための活動である。そしてその延長により良い暮らしを欲するという欲求があり、歴史上の出来事はそれを達成するための活動として理解できると思う。その時代のヒトとモノとカネの動きである「経済」を考え、ヨコの繋がりを理解しようというのが本書の狙いである。世界史の問題で同年代に起こった出来事を選べ的なのがあるとき、いちいち年号を覚えてないのでテキトーに回答していたものだが、経済的な結びつきを理解することで今度こそその瞬間の世界の様子を把握したい。1つ1つの解説もとても勉強になったのだが、全部書いているワケにいかないので、以下なんとなく全体として言えそうな、現代にも通じていそうなポイントを示す。

  •  物々交換の時代から硬貨が生まれそれを使った取引にシフトすることになるが、その影響は大きく「商売がやりやすくなったこと」と「貯蓄できるようになったこと」。貯蓄は貧富の差をもたらした。
  • 商売の範囲の広がりに伴って世界は一体化していった。世界の一体化したことで不況が連鎖する世界になった。
  • 何かしら(すごいリーダーが出てくる、いい仕組みがある、地理的な好条件など)で力を持った国が膨張する、あるところで膨張が止まる(または外部からの圧力が生じる)ことで膨張している間うまくいっていた仕組みがうまくいかなくなり衰退する、というのは歴史全体でよく見られるパターン。
  • イギリスで産業革命が世界に先立って達成されたのは、大西洋の三角貿易による資本の蓄積と農業革命による人口の増加と農地を追われた農民が労働者になったことで豊富な労働力が生じたという背景がある。産業革命によってモノがたくさん作れるようになったが、その代わりに作るための材料を手に入れるため、作ったモノを売り捌くために植民地の取り合いが生じ、帝国主義につながっていく。(生産力の増大は売れ残りを抱えるリスクと隣り合わせ)(効率よく生産するための分業)世界を分割し終わった後は他国から奪うしかなくなる。

 第二次産業革命以降、現代に至るまでの企業の姿は、先に巨額の借金をして商品を生産し、「借金を返すため」に飽和した市場で競争し、商品が売れ残ると借金が返せずに業績が悪化する」という姿。

  • 金本位制(いつでも金と交換できる保証つきの紙幣を発行する仕組み)のメリット:金同じく金本位制をとっている国との貿易がしやすい(対応する金の重さで取引すれば良いため)、デメリット:戦争が起こったとき、人々は持ってる紙幣を金と交換しようとする(国が消滅すると金と交換してもらえなくなるため)、一方軍需物資の買い付けで国外に金が流出する。金本位制の国が手持ちの金を失うことは国の財政が破綻することを意味する。また急にお金が必要になっても紙幣が印刷しにくい。金本位制は戦争に向かない。そこで列強諸国は金本位制から離脱していった。
  • 不況に陥ると、自国の製品は売れるようにしたいが、自国製品が売れなくなるのを防ぐため外国製品には関税をかける、「売りたいけど、買わない」閉鎖的な状況が生まれる。

こうしてみると世界は何度も不況に襲われ、それを打開するためにいろんな策が講じられてきたことがわかる(多くの場合それは戦争、および戦争につながるような行為)。そして不況というのは需要と供給のバランスが崩れることだと理解できる。(モノが足りなくなるインフレ、モノが余っちゃうデフレ(豊作不況という言葉を知った))(リーマンショックのような金融機も、投機や投資家のマネーゲームによって本来の価値とその瞬間の価値が乖離することによって引き起こされる。)また、資本主義経済は消費される量が減るとうまくいかないシステムだということができる。(先に作った商品を売り捌く必要がある)。日本ではデフレの脱却が叫ばれているが、生産力が高まり市場が一定飽和状態にある現代ではデフレ方向に進むことは自然なことのように思える。

前回の資本主義の限界を感じさせてくれた本とつなげて考えると、やはり資本主義はあまりにも危うい気がしてくる。一方で歴史を眺めてみると、世界は順調に順番通りに段階を踏んでここまできている感じがする。資本主義の行き詰まりがささやかれるようになった今、「資本主義からの脱却」は世界にとって自然に訪れる次のステップなのではないか。