ビジネスエリートになるための教養としての投資(奥野一成)

「これからはただ貯金をするだけではなく投資によって資産形成を目指すべきだ」という風潮が広がっているように思う。実際、超低金利時代に銀行預金しててもお金は増えないし、お金の運用によってお金が増えればこんなに嬉しいことはないが、とは言っても手を出しにくいイメージがある。とりあえず本を一冊買ってみようということで本屋に行ったが、投資の機運の高まりもあって本屋にはたくさんの投資関連の本がある。1冊目なので具体的なやり方というよりはもっと大きな理論、マインド、投資の仕組みみたいなものから入りたい、ということでこの本を選んだ(最近「教養」という単語に弱い)。

この本でまず述べられているのは、投資をすることだけではなく投資を通じてビジネスを学び、労働者のマインドから抜け出し投資家のマインドを持つことが重要だということ(この本では労働者2.0を目指そうという標語が掲げられている)。労働者が自分の労働力を差し出して「時給×時間」の給料を得るのに対し、投資はお金を預けてその会社に働いてもらう、会社がうまくいっていれば、他人が働いた分の収入も手に入れることができる。日本では投資についてネガティブなイメージ(働かずにお金を得ようとしていることに対する疑念)があるが、投資とはリスクを負って資金を投じ、そのおかげで達成された問題解決の見返りに利益を得ること、大変さは変わらない。 

強調されているポイントとして投機と投資の違いがある。前者は細かく売買して差額を儲けようとすることであり、それは労働と変わらない。成長するかを見極め、一度買ったら長期保有するウォーレン・バフェット流の投資を目指すべき。選ぶときのポイントは構造的に強靭な会社(付加価値の高い産業、長期的な潮流、圧倒的な競争優位性(参入障壁の高さ))を選ぶこと。

 投資が必要だと主張する背景には日本が貧しくなっているという事実がある。外国が株価の上昇に伴って資産を増やしているのに対し、日本人は銀行で眠らせておくだけで資産がそれほど増えていない。なるべく利益を抑えて安くモノ・サービスを提供しようとするデフレマインドと相まって経済成長に伴った賃金・物価の値上がりが起こらない日本は、外国の観光客から見ると安い観光地になっているという分析があってハッとした。

この本は投資の本というよりは投者の側から見た経営の話と言っていいと思う。日本企業の発展途上国型のビジネスモデルの行き詰まりや、AI時代にデータを持つ会社に優位性が生じる(逆にアプリ開発などは参入障壁が低い)ことなど経営の本としても良い本であるように思った。(実際に、投資力=経営力であると言ってよい。)投資の具体例も紹介されており、著者の投資の考え方のポイントもわかりやすく紹介されていると思う。資本主義の世界を見る目が育つような良書。 配当が高い \Leftrightarrow 投資に回せたお金を先食いしちゃってる、長期的に見ればお互いにとって損というなるほどな意見もあり、もちろん投資の知識も得ることができる。

ここのところ資本主義は破綻しそうみたいな本を読みがちだったので、資本主義のど真ん中の本を読んだのはタイミングとしても良かった。やはり重要なのは(徹底的な企業評価によって、投資は知の格闘技と表現されていた)会社が「成長」できるかどうかであり、投資家目線ではそれを見抜けるかどうか。成長が続く限りはうまくいきそうだが、一方でお金がお金を生む仕組みにはやはり危うさが伴うように見える。一定資産を持つ投資家にとってはより成長の見込める会社に投資していけば資産が増えていくのだが、それに選ばれなかった会社で働いている人は苦しくなっていく。(ただし競争力のない会社が淘汰されていくのは当たり前のこととも言える)そこら辺がうまく調節されればよいのだろうけど。

ともあれ、しばらくはこの資本主義の中で生きていくことになるので、投資家マインドを身につけお金にお金を稼いでもらえるようになれたらいいなあ。とはいえこんなガッツリ評価した上で投資するのは大変そうだから、ギャンブルに毛が生えたような投資がせいぜいなのかなあ。本気でやるならこの本のようにやるのが良いだろうから、1つの考え方の基準を得たということで、も少し勉強してみたい。