反省させると犯罪者になります(岡本茂樹)感想

タイトルもそうだし、帯には”りっぱなしつけが犯罪のモト”とあり、こういうキャッチーで「スゴいでしょ感」「読みたくなるでしょ感」満載の本は敬遠してしまう傾向があるのだが、予想に反して(失礼)いい本だった。読んでみると筆者の主張は「反省しなくていい」ではなく、「反省させる前に踏むべきステップがある」というもの。なるほど。そのステップとは簡単にいうと「自分と向き合うこと」。

 教育の場合に絞って考えると、子供の問題行動には何かしら原因があり、犯罪は積もり積もった負の感情が表面化したと見る事ができる。言い換えると、溜まっていた「しんどさ」を問題行動によって「発散」しようとしている可能性がある。その場合、溜まっていく「しんどさ」を解消しなければ根本的な解決にはならない。ここで「反省文」など求めてしまうと、そのしんどさがさらに「抑圧」されてしまう。「りっぱなしつけ」もその「抑圧」の代表格であるので、”りっぱなしつけが犯罪のモト”と言えるわけか。なるほど。ただこれを解決しようとすると親を変える必要がありそうで大変そう。

 現在の「反省」を求める指導では「反省の仕方」を学ぶことはあっても本当の意味での反省には到達できない、それどころか新たな抑圧によって負の感情が蓄積し爆発(再犯)を引き起こしてしまう。必要なのは反省ではなく「ケア」。まず受容的な態度で本音を引き出し、自分の心の中の整理させ、自分が犯罪行動に至った理由を自己理解させるのが第一。

 

文章で書くのが辛くなってきたので以下箇条書き。

  • 人間は冷たくしてきた人には冷たくしたくなる。自分を大切にされたことのない人は他人を大切にすることはできない。自分の痛みに鈍感になっていると他人の痛みを理解できない。そういう環境に置かれたという加害者の「被害者性」に目を向ける。
  • 自殺の多い日本では「命の重み」の自覚が薄れている。普段から人とつながる生活を送っていれば、他者の存在の大切さに思いが至る。支援者が「大切にされる経験」をさせてあげることで、他人の大切さに気づかせる。
  • 「人に迷惑をかけるな」というしつけを受けた子供は、「人に迷惑をかけている人」を見るとイライラしてしまう。またそのしつけは、人に頼らない生き方、孤立につながる。孤立は負の感情に繋がり、それがたまり、犯罪という形で爆発してしまう。
  • 抑圧を受けて育った親は、自分の子供にも抑圧をかけた教育をしてしまう。
  • ただ、全く我慢せずに生活することは不可能。だから、負の感情やしんどさをうまく発散できる力が必要。「子供っぽさ」(素直に表現する態度)を持つこと。その力を育むには子供の時に「子供っぽさ」を受け止めてくれる大人の存在が必要。
  • いま日本の法律は厳罰化の方に傾いている。被害者感情を考えれば最もだが、これによって「悪いことをした人には厳しく反省させる」という風潮が広がるのは危険。

被害者の気持ちになって…という授業(加害者は悪い奴で被害者はかわいそう、だからいじめはやめよう、というような授業)はよくあるが、筆者は「加害者の視点」からのいじめ防止教育を提案している。(いじめたくなった心理を考えさせ、ストレスを溜め込まないような繋がりを持つ事が大事だねと展開する)タイトル倒れの本だが騙されたと思って買ってみよう(失礼)と思って買った本書だったが、新しい考え方を教えてくれる、めちゃくちゃ勉強になるだけの本だった。何を持っていじめが解消したか、というのは議論があるところだが、この本にあるような手順で加害者が心を改めれば、それは間違いなく解決したと言えるだろう。教育には問題が山積しているが、この本はそれを考えるヒントを与えてくれる。多くの人に読んでほしい。

被害者のケアは自然だけど加害者にもケアが必要なのか。もう警察とかそっちに任せるべきかと思っていたけど、どっちかというとカウンセラー的な人の仕事か。教師は予防教育、人権教育をさしあたり頑張ると。