シャガクに訊け(大石 大)感想

この本を読んで入るはずだったゼミを変えた子がいる、というエピソードを聞いてから気になっていた本。読み始めたら面白く、一気に読み切ってしまった。学生の悩みを聞き、社会学からの視点を提供、アドバイスをするという物語。もっと社会学に寄ったカタめの話かと思っていたが全体を通して物語調で、主人公と先生のやりとりや、事件の真相を探るところなどは社会学に関係なく面白かった。ラストもよかった。登場した社会学的な内容は
ラベリング理論(犯罪その他逸脱行動の存立を、逸脱者と直接・間接に関わる他の人々の認知や評価によって説明しようとする立場)
正しいとか間違っているとか正常とか以上とかを決めているのは社会である(文化人類学の視点)
認知的不協和の理論(頭の中に矛盾が生じると、それを解消するように行動や態度が変化する→ブラック企業と関係)
スケープゴート(共通の敵を作ることで親密な関係となる。→いじめや戦争)
自己成就的予言(銀行が破綻する、という発言のせいで銀行が破綻する。因果関係が逆になる→ピグマリオン効果
などで勉強になった。

その他印象に残ったフレーズ

「僕は社会学の知識を使ってしかアドバイスできないんだ。だから、相性のいい相談とそうでない相談がある。僕は本来カウンセリングについては素人だ。できる範囲のことしかやってはいけないんだよ」

「そんな不完全な僕たちが振り絞ってなんとか作り上げたのが、今のこの社会なんだ。不完全な人間が作った社会だから、よく観察すると綻びもたくさんある。だけど不完全だからこそ、僕は社会学を学ぶことが好きだ。」
「不完全でいいわけないです!」
「学ぶことだ。」「傍観者効果について学んだ人は、誰かが緊急事態に陥ったとき、傍観者にならず積極的に手をさしのべる傾向にあるそうだ。アイヒマン実験もきっと同じだ。人間は権威に従いすぎるという知識があれば、きっとどんな場面においても、自分の意思に従って行動しようと意識するようになる。君は社会学部だよね。だったら、まずは毎日の勉強を頑張ることだ。社会のこと、そして人間のことをよく学べばいい。」

「以前君と民主主義より優秀な独裁者がいた方がうまく回るかもしれない、という話をしたことがあったね」「そのような感情を利用した政治家がいる。アドルフ・ヒトラーだ」「この過ちを取り返すことはもうできない。だけど、再発を防ぐための努力を僕たちは行わなければならない。なぜ戦争が起きたのか、当時の社会状況や人々の心の動きを学ぶことで、同じ過ちを繰り返さないことができる。」「大学の勉強で得る知識や考え方は、就職には直接関係ないことも多い。だけど、僕たちがこの先の人生を生きていく上で、あるいはよりよい社会を作っていこうとする上で、大きな武器になってくれる。」「後は正しいことを行う勇気さえあれば、道を踏み外すことはない。」

 

社会学すげえぇってなった。そして、学ぶことの重要性をまた違う形で感じることができた。知っていればせずに済む、知っているだけで変えられる、そういうことって世の中にたくさんあるのではないか。であれば、知ること、知り方を知っていることが極めて大切なのだと思った。いい本でした。